戦略を描くだけでは、事業は動きません。事業計画や目標を「実現できるかたち」に落とし込み、各部門や現場を動かすのが事業推進の役割です。昨今では、戦略と現場の分断や、部署横断プロジェクトの停滞に課題を抱える企業が増えており、「推進」の専門機能を設ける動きが広がっています。

本記事では、事業推進の定義から業務内容、役割や求められるスキル、機能しない組織の課題までを網羅的に解説します。BtoB事業において、「なぜ今推進が求められるのか?」を実践的な視点で紐解きます。

 

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目次

事業推進とは

事業推進は、戦略を「実行」へとつなげる実務機能です。事業を前に進めるうえで不可欠なこの役割は、しばしば他の職種と混同されます。ここでは、まず事業推進の定義と役割を明確にし、事業企画・事業開発との違いも整理します。

事業推進の定義と役割

事業推進とは、策定された戦略や計画を「実行」へと導き、社内外の関係者を巻き込みながら成果を出すための実務機能を指します。立案された事業計画を、現場のアクションに落とし込む橋渡し役として、全体の進捗管理・ボトルネックの特定・関係者の調整などを担います。

例えば、以下のような業務が該当します。

  • 戦略をもとにしたプロジェクトの立ち上げ・実行管理
  • 関係部署との連携フローの整備
  • 課題の洗い出しと対策の実行
  • 必要に応じたリソース調整や意思決定サポート

重要なのは、計画の完遂ではなく目的達成のために柔軟に軌道修正し、成果へと導くことです。単なる事務的なPM(プロジェクトマネジメント)ではなく、結果にこだわる実行部隊としての位置づけが強くなっています。

事業企画・事業開発との違い

事業推進は、混同されやすい事業企画や事業開発と密接に関わりながらも、担う役割が異なります。

事業企画 事業開発 事業推進
概要 戦略の立案・計画の策定 新規事業やアライアンスの創出 立案された計画の実行・実現化
主な役割 中長期視点の構想・数値計画の設計 機会発見・社外連携の推進 進捗管理・実行支援・横断調整

事業企画=頭脳、事業開発=開拓者、事業推進=推進力(エンジン)と例えると分かりやすいかもしれません。また、各役割は企業によって兼任されることもありますが、事業の拡大や複雑化に伴い、推進専任チームを置く企業が増えているのが近年の傾向です。

事業推進が求められる3つの背景

良い戦略を描くだけでは、成果にはつながりません。戦略と現場の実行がかみ合わなければ、企業の成長は鈍化し、機会損失も生まれます。ここでは、事業推進という機能が近年重要視されている背景と、その目的を整理します。

戦略と実行の分断による機会損失

企業には多くの戦略や施策が存在しますが、その多くが「実行されないまま終わる」ことも珍しくありません。原因は以下のような戦略と実行の分断にあります。

  • 現場に戦略の意図が伝わらず、動きがバラバラになる
  • 組織がサイロ化し、部門をまたぐ横断的な施策が機能しない
  • 実行段階で課題が発生しても、意思決定者にフィードバックされない

事業推進はこうした分断を埋め、実行される戦略に変換する潤滑油としての役割を果たします。現場との距離が近いからこそ、課題を即座に拾い、調整・改善しながら前に進めることができます。

変化が激しい市場環境とスピード経営の必要性

現代の事業環境は、テクノロジー・顧客ニーズ・競合状況など、あらゆる側面で変化のスピードが加速しています。こうした状況では、「戦略を立ててから1年後に実行」では遅すぎます。計画は刻々と無効化されるため、変化を捉え、素早く軌道修正しながら動かす実行機能=事業推進が不可欠になります。

特にSaaS・IT企業など、スピードが命の領域では推進力が競争力となるケースも多く見られます。

部門間調整・社内連携の重要性

複雑な事業になるほど、関係者は増え、以下のような連携の壁が発生しやすくなります。

  • マーケティングと営業の連携不足
  • プロダクト部門とビジネス部門の対立
  • 意思決定者が複数いることでの進行の遅れ

このような状況で機能するのが、推進担当者の調整力や巻き込み力です。立場の異なる関係者に共通のゴールを示し、合意形成を図りながら進めるハブの存在が、今や事業成功のカギとなっています。

事業推進の主な業務内容5選

事業推進の役割は、立てた計画を机上の空論に終わらせないことです。戦略と現場の橋渡しを担う立場として、多岐にわたる業務を通じて事業の前進を支えます。

ここでは、具体的な業務内容を5つに分けて整理します。

事業計画に基づく実行支援・進捗管理

策定された事業計画やアクションプランを現場で実行に移すための支援を行います。関係者への役割分担やタスク設定、進捗状況の可視化など、計画と実行のギャップを埋めるための実務推進が中心です。

関係部署との調整・会議体運営

開発、営業、マーケティング、管理部門など、複数の部署と連携してプロジェクトを前に進めます。意思決定をスムーズに進めるための会議体の設計・運営や、部門間の利害調整も重要な業務のひとつです。

KPIモニタリングとレポーティング

事業KPIやプロジェクトの進捗指標をモニタリングし、定期的に数値レポートを作成します。経営層や関連部署への報告を通じて、状況共有と意思決定支援を行います。改善点やボトルネックの早期発見にもつながる業務です。

課題抽出と改善策の立案・実行

現場で浮き彫りになった課題に対し、原因分析と改善策の検討を行います。再発防止やプロセスの最適化など、よりよい事業運営を実現するための打ち手を企画・実行する役割です。

新規施策の立ち上げとプロジェクト推進

新たな施策やプロジェクトを企画・立案し、社内調整や体制づくりを経て推進を担います。0→1で事業を動かす立場として、計画だけでなく実行段階まで伴走することが求められます。

事業推進に求められる5つのスキル

事業推進は単なる調整役ではなく、戦略と現場をつなぎ、成果に導く役割を担います。幅広い業務を横断的に担う立場だからこそ、必要とされるスキルは多岐にわたります。

ここでは、事業推進担当者に特に求められる主要スキルを紹介します。

プロジェクトマネジメント力

複数の関係者が関わるプロジェクトを、期日・リソース・目的の3要素を意識しながら、適切に設計・進行していく力です。

  • タスク分解とスケジュール設計
  • ステークホルダーとの合意形成
  • ボトルネックの可視化と対処

上記の基本スキルに加え、状況変化に対応する柔軟性も不可欠です。

課題発見・解決スキル

プロジェクトが計画通りに進まない場合、その原因を早期に発見し、対策を講じることが求められます。

  • KPIや定性データをもとにした課題抽出
  • 根本要因の分析(Why思考)
  • 仮説立案→検証→改善のサイクル運用

構造的に物事を見る視点と、動かすための実行力がセットで求められます。

コミュニケーション力・ファシリテーション力

事業推進の多くは「自部署ではないメンバーを巻き込む仕事」です。信頼を得て協力を引き出すためには、以下のような力が必要です。

  • 意図や背景を共有する説明力
  • 対話の中で接点を見つける傾聴力
  • 会議をゴールに向けて進行するファシリテーション

共創を生むコミュニケーション設計力が鍵となります。

経営・事業戦略の理解

推進する施策が事業全体の方針とズレていては、本質的な成果は得られません。

  • 経営目線での優先順位判断
  • 中期計画や事業戦略の把握
  • 上層部との共通言語を持つ知見

このような戦略視点の理解と翻訳力が、企画と実行の間をつなぐ重要な役割を果たします。

数値・KPIに強いデータ感覚

進捗や成果の判断材料として、定量データに強いことは必須です。

  • モニタリングすべき指標の設計力
  • ExcelやBIツールを用いたデータ集計・分析
  • 数値の背後にある背景を読むリテラシー

上記のような「見える化」された情報を意思決定や改善に活かす力が推進力の精度を左右します。

4フェーズ別で見る、事業推進に求められる役割と人材価値

市場とのフィットを探る初期段階から、スケーラブルな運用を目指す段階まで、フェーズごとに求められる推進力やスキルセットは変化します。ここでは、4つのフェーズに分けて、事業推進に求められる役割と人材価値を整理します。

プロダクトマーケットフィット(PMF)フェーズ

この段階では、プロダクトやサービスが「誰に・何を・どのように届けるか」が明確になっておらず、試行錯誤の真っただ中にあります。

  • 顧客の声を起点としたユーザー理解
  • 手を動かしながら仮説検証を繰り返す実行力
  • 状況に応じて動き方を変えられる柔軟性

上記のようなスキルが特に重視されます。事業推進担当者は、戦略よりも現場での検証と学びを回す実務家である必要があります。

検証フェーズ

一定の方向性が見え始め、プロダクトやサービスをより効果的に届けるための施策検証が求められる段階です。

  • 適切なKPI設計と目標設定
  • 施策の企画・実行と高速なPDCA運用
  • チーム内外と連携した改善推進

上記のような、「計測と改善」を回す推進力が重要になります。動きの速さと同時に、施策の打ち手の質が成果に直結します。

グロースフェーズ

事業が拡大し、社内外の関係者も増えるこのフェーズでは、再現性のある仕組みづくりとチーム運営が求められます。

  • 成果をチーム単位で最大化する組織づくり
  • 属人化を防ぎ、標準化を進めるプロセス設計
  • 複数プロジェクトのハンドリングと人材育成

上記のようにプレイヤーからマネージャーへと視座を上げる段階です。事業推進は、「全体を整える役割」としての色を強めます。

標準化フェーズ

事業を安定運用し、効率的な体制へと移行するフェーズです。ここでは、再現可能なモデルを構築し、組織全体で機能させることが求められます。

  • 業務の流れを明文化する業務フロー設計
  • ツール導入やSaaS活用による業務効率化
  • 他部署と連携しやすい体制づくりとナレッジ共有

この段階の事業推進は、「変化を仕組み化する実行者」として、改善と定着の両輪を回す立場になります。

事業推進を設けるべき4つのタイミング

事業推進という役割は、企業の成長フェーズや組織の状態によって必要性が高まっていきます。ここでは、実際に多くの企業が「事業推進担当を設けるべき」と判断する代表的なタイミングを紹介します。

複数部署を横断するプロジェクトが増えてきた

新規施策や業務改革など、関係部署をまたぐ取り組みが増えてくると、従来の縦割り構造では調整が追いつかなくなります。特定のリーダーが各部門の橋渡しを担うことで、全体最適の視点からプロジェクトを前に進める必要が出てきます。

事業戦略の実行スピードが上がらない

戦略はあるものの、具体的なアクションに落とし込まれていなかったり、実行フェーズで足踏みしてしまっている場合、推進機能が欠けている可能性があります。戦略と現場のあいだを繋ぐ担い手として、事業推進が必要とされます。

改善・改革施策が絵に描いた餅になりがち

施策が検討されても、形になる前に流れてしまったり、成果につながらず終わってしまうことは少なくありません。こうしたやりっぱなしを防ぎ、アクションの進捗と成果をモニタリングする役割として、推進担当が求められます。

新規事業や事業再構築を推進したい

既存組織の延長では動きづらい新規領域への挑戦や、大規模な事業再設計には、専任の推進担当が不可欠です。特定のリーダーがオーナーシップを持って動くことで、検討にとどまらず、実行・改善までを一貫して担える体制を築けます。

事業推進が機能しない3つの原因

「事業推進」という肩書きや部署があっても、思うように成果が出ないというケースは少なくありません。ここでは、事業推進が機能しない代表的な原因と、それに対する実践的な対策を解説します。

役割の不明確さ(何でも屋化のリスク)

事業推進の定義や責任範囲が曖昧なままだと、社内の「便利屋」になってしまうことがあります。

  • 現場からの都度依頼に対応するだけで本来の戦略遂行に集中できない
  • 成果責任が曖昧になり、推進効果が可視化されにくい

こうした「何でも屋」状態に陥ると、本来の価値を発揮できず、推進組織への期待値自体が下がってしまいます。

権限や調整力の不足

いくら推進意欲があっても、関係部署を巻き込むための「権限」や「実行力」が乏しいと、プロジェクトは空中分解しかねません

  • 推進担当が「お願いベース」の調整しかできない
  • キーパーソンとの合意形成が進まず、意思決定が遅れる

組織内での位置づけが弱いままでは、単なる実務支援にとどまり、変革の推進役にはなり得ません。

現場との信頼関係・連携不全

推進担当者が現場の理解を欠いたまま指示を出すと、かえって現場の反発や形骸化を招くリスクがあります。

  • 業務実態を知らないため、非現実的な計画になる
  • 「上から目線」と受け取られ、協力が得られない

特に実行フェーズでは、現場との信頼関係と継続的な対話が成功の鍵になります。

事業推進を自社内に根付かせる4つの方法

推進担当を立てただけでは、うまく機能しないケースは少なくありません。「数ヶ月で自然消滅してしまった」「現場に受け入れられず孤立している」といった状況を防ぐには、単なる役割設置ではなく、推進の考え方や働き方を組織全体に浸透させる工夫が必要です。

経営・マネジメント層からのコミットメント

推進機能を浸透させるには、まず経営層やマネジメント層からの強い後押しが必要です。ただ任命するだけでなく、「なぜ推進機能が必要なのか」「何を実現してほしいのか」といった期待と方針を明確に打ち出すことで、社内の理解と協力を得やすくなります。

推進担当が横断的に動くためには、社内での発言の重みや調整の正当性を担保するメッセージが不可欠です。

現場を巻き込む協働スタンスの徹底

推進担当がいくら優れた戦略を描いても、現場に受け入れられなければ前には進みません。重要なのは、現場と「ともに進める」という協働スタンスを貫くことです。

現場の課題に耳を傾け、実態を踏まえた施策に落とし込む。現場と一体となって動く姿勢を見せることで、「一緒に成果を出す存在」として信頼されていきます。

役割・スコープの明確化と浸透

推進担当は、しばしば「何でも屋」になりがちです。業務が属人化したり、部門間の境界線が曖昧なまま広がってしまうと、期待される成果が出せず、かえって不信感を招くことにもなりかねません。

だからこそ、「どこからどこまでを担うのか」「誰と連携し、どんな目的を果たすのか」といった役割とスコープを定義し、社内に明確に示すことが重要です。

スキル・人材の蓄積と育成

一時的に成果を上げても、推進を担う人材が離れてしまえば機能は崩れてしまいます。推進を属人化させない仕組みをつくることが、持続的な成長には不可欠です。

ノウハウを文書化し、成功事例を社内で共有する。次世代の推進担当者を育成し、継続的に人材を増やしていく。そうした取り組みが、推進を文化として根付かせる土台となります。

事業推進を自社だけで根付かせるのが難しい場合は外部支援も有効

推進機能の必要性は理解していても、「推進できる人材がいない」「横断調整のノウハウがない」といった理由から、なかなか立ち上げに踏み切れない企業も少なくありません。そうした場合は、外部の知見を一時的に借りることも有効な選択肢です。

たとえば、外部のプロジェクトマネージャーや事業推進の専門家に参画してもらい、初期フェーズの業務設計や会議体構築、運用モデルの確立をサポートしてもらう。あるいは、第三者の立場だからこそ可能な社内ヒアリングや、部門を超えた利害調整を任せることもできます。

重要なのは、外部支援を単なる代行で終わらせず、社内にノウハウを移植し、内製化へとつなげる視点を持つことです。一時的な伴走を通じて、社内の人材が自ら推進できる力を蓄えられるようにすることで、将来的な自走体制の確立に近づきます。

まとめ|事業推進は戦略を形にする推進力そのもの

事業推進は、経営層が描くビジョンや戦略を、現場で確実に実行へとつなげる推進力そのものです。戦略と現場の間にあるギャップを埋め、組織全体を同じ方向に動かしていくためには、単なる調整役にとどまらない構想力・巻き込み力・実行力が求められます。

変化の激しい市場環境では、アイデアを出すだけでなく、スピード感をもって形にしていく力が問われます。その中核を担うのが、事業推進の役割です。

明確な役割設計や人材育成、現場との信頼関係を通じて、「動ける組織」へと変革する仕組みづくりが、これからの企業成長のカギを握ると言えるでしょう。

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