新規事業の立ち上げは、企業の成長戦略の中心に位置づけられています。しかし実際には、「アイデアはあるのに形にならない」「検証が前に進まない」「社内が動かない」といった壁に多くのBtoB企業が直面します。

特にBtoB領域では、ターゲットの定義・市場規模の把握・検証先の精度・営業モデルの選択など、立ち上げ特有の論点が成果を大きく左右します。つまり、新規事業は発想力ではなく事業として成立させるための設計力が問われる取り組みです。

本記事では、BtoB企業が新規事業を成功させるために必要な戦略の考え方や、成功の原則、具体的な立ち上げプロセスなどを体系的に解説します。

経営企画・事業企画・新規事業担当の方が、明日から実務で使える内容なので、ぜひ参考にしてください。

 

シャコウではBtoBマーケティングに関する情報をYouTubeで発信しています。初心者の方でも網羅的に理解できる内容になっていますので、ぜひ参考にご視聴ください。

▼【企業価値とBtoBマーケ】ROICと成長性の最適バランスとは?

目次

BtoB新規事業立ち上げが必要な理由

日本企業は今、これまでにないほど「企業価値向上」を強く求められています。

東証によるPBR1倍割れ企業への改善要請や、「資本コストを意識した経営」の義務化など、資本市場からの圧力は確実に高まっています。

特に問われているのは、ROIC(投下資本利益率)・WACC(資本コスト)・g(成長率)の3つをどう改善するかという点です。しかし実際には、既存事業だけではこれ以上の成長を描きにくい構造的な課題があります。

ROIC偏重の経営は限界に近づいている

多くの企業はコスト最適化や資本効率化などにより、一定のROIC改善を実現してきました。しかし、

  • 自社株買い
  • 余剰資産売却
  • コスト削減

といった施策は効率を良くするアプローチであり、将来の成長を生むものではありません

また、資本コスト(WACC)を引き下げる余地も限られています。つまり、これからの企業価値向上は ROIC改善だけでは不十分 という段階に来ています。

企業価値の鍵は「g(成長率)」の設計に移りつつある

企業価値(EV)は、以下の式で決まります。

EV = FCF /(WACC − g)

・EV(Enterprise Value):企業の「事業としての価値」。将来生み出すキャッシュフローの現在価値を表したもの。
・FCF(Free Cash Flow):事業の維持・成長に必要な投資を差し引いたあとに残る、自由に使えるキャッシュ(真の稼ぐ力)。
・WACC(Weighted Average Cost of Capital):株主や銀行などからお金を集めるために必要な“資本のコスト”の平均値。投資家が期待する最低限の利回り。
・g(growth rate):将来のキャッシュフローがどれくらいの割合で成長していくかを示す成長率。企業の「これからの伸びしろ」への期待。

つまり「g(成長率)」をどう高めるかが、企業価値を左右する最大の要因になっています。

しかし現状、多くのBtoB企業では

  • 市場飽和
  • 単価競争の激化
  • トップラインが伸びにくい構造

により、既存事業だけでg(成長率)を押し上げることが難しくなっています。

だからこそ、新規事業は「成長投資」として必須です。新規事業はこれまでのような余剰資金の使い道ではなく、gを押し上げ、企業価値を構造的に高めるための成長投資として捉え直す必要があります。

  • ROICで現在の稼ぐ力を維持しながら
  • g(成長率)を新規事業で引き上げる

この両輪をつくることが、資本市場に対して継続的に「企業価値向上」を示すための最重要テーマです。

 

▼以下の資料で、企業価値向上に根ざしたBtoB新規事業開発と推進について詳しく解説しています。

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BtoB新規事業の立ち上げ前にクリアすべき5つのポイント

新規事業は立ち上げ前の段階で、どこまで精度高く準備できているかが、その後のPMF検証や事業スケールの成否を大きく左右します。

ここでは、事業開始前に必ずクリアしておくべき5つのチェックポイント を整理します。

目的と事業テーマの明確化

最初に取り組むべきは、「なぜこの新規事業をやるのか」を言語化することです。目的が曖昧だと、ターゲット選定、KPI設計、検証プロセスなど後続の工程がすべてブレてしまいます。

重要なのは、単なる“思いつきのテーマ”ではなく、既存事業との関係性企業価値(EV)向上につながる必然性が説明できること。

たとえば、以下の観点は必ず整理しておく必要があります。

  • 既存事業の強み(顧客、チャネル、技術、ブランド)を活用できるか
  • 経営課題(ROIC改善、g向上、事業ポートフォリオ見直し)と整合しているか
  • 「なぜ今このテーマなのか」の外部環境・市場理由があるか

「目的とテーマ」を曖昧にしたまま進めると、後で必ず行き詰まります。

ターゲット定義

新規事業が失敗する最大の原因は、誰の課題を解決するのかが曖昧 なことです。「ペルソナを作った」程度では足りず、具体的なセグメントまで落とすこと が必要です。

ターゲット定義で押さえるべきは以下の点です。

  • どのセグメント(業界・規模・役職・事業フェーズ)の企業を狙うのか
  • そのセグメントに共通する“明確な課題”が存在するか
  • 実際にアプローチできるチャネル・導線があるか

ターゲットが精緻であるほど、PMF検証は高速化し、無駄な開発や検証を避けられます。

市場規模・社数の把握

事業計画の現実性を高めるためには、市場サイズを定量で把握すること が不可欠です。市場規模を曖昧にしたままPoCに進むと、「そもそも狙う市場が小さすぎた」という事態にもつながります。

特にBtoBでは、

  • コア市場(最初に勝ち切る市場)
  • モア市場(隣接して広げられる市場)

の2段構造で考えることが重要です。

把握すべき項目は次の通りです。

  • コア市場の社数と、到達可能なアドレス数
  • 各セグメントのLTV換算の市場規模(売上ポテンシャル)
  • その市場で勝てる理由(アセット・競争優位性)

これが定まると、SDR/BDR/ABMのどれで市場攻略すべきかも判断しやすくなります。

事業仮説(提供価値・課題)の整理

立ち上げ初期に求められるのは、売れる前に売れるかどうかの検証です。しかし、事業仮説(課題・提供価値・代替手段)が整理されていないと、検証の打ち手が定まりません。

整理すべき視点は以下の通りです。

  • 顧客が直面している課題(どの業務・どのKPIに影響するか)
  • 課題に対して、どのように価値を提供するのか
  • 顧客が現在使っている代替手段(競合を含む)
  • 自社が提供できる優位性(スピード、コスト、品質、仕組み化など)

この因果関係がつながって初めて、検証すべき仮説が見えるようになります。

成功・失敗の基準(KPI)の設定

新規事業は、KPIがなければ成功したかどうかを判断できません。「なんとなくよさそうだから続ける」という最悪の状況を避けるためにも、立ち上げ前に成功・失敗基準を明確にしておくこと が必要です。

KPIは階段状に設定すると機能しやすくなります。

  • 初期KPI(接点の量):ターゲットへ何件アプローチし、どれだけ対話できたか
  • 中期KPI(価値検証):課題の一致率、商談化率、PoC参加率
  • 長期KPI(事業の持続性):LTV、継続率、利益率、企業価値への寄与

特に「どの条件で撤退するか」を事前に決めておくことは、健全な経営判断に不可欠です。

BtoB新規事業立ち上げが失敗する4つの理由

BtoBの新規事業は、他領域と比べて失敗率が高いと言われます。その理由は、市場の構造や初期設計、社内体制などの観点で説明できます。どれか一つではなく、複合的に絡むことで立ち上げが難しくなるのがBtoBの特徴です。

以下では、重複しがちな論点を整理しながら、失敗の本質を分かりやすく解説します。

市場構造の複雑さ

まず理解すべきは、BtoB市場そのものが立ち上げに向いていない構造だということです。

  • リードタイムが長い(半年〜1年以上の検討は当たり前)
  • 意思決定者が多い(現場・購買・部門長・役員など)
  • PoC(検証)が長期化し、実績化までの時間が読みにくい
  • 顧客ごとに事情が異なり、営業再現性が作りにくい

つまり、「思ったように売れない」のではなく、構造的に時間がかかる設計になっています。この外部環境の難しさを前提にしないまま立ち上げると、序盤で必ずつまずきます。

PMF不在のまま進む

多くの新規事業は、PMF(プロダクト・マーケット・フィット)を確認する前に動き出すことで失敗します。

  • 顧客課題・提供価値・収益モデルの一致が検証されていない
  • 誰に売るべきか明確でない
  • 検証を“本当に必要な相手”に実施できていない
  • ターゲットのズレが営業精度・顧客開発を崩していく

PMF前のスケールは、地図を持たずに山に登るようなものです。設計の段階で誤りがあるため、後工程(営業・開発・投資)がすべて負の連鎖に陥ります。

社内の推進体制が弱い

BtoB新規事業は、社内の「推進力」が弱いと前に進みません。以下の複数要因が同時に発生し、立ち上げを止めてしまいます。

  • 承認プロセスが遅い
    稟議や部門調整が通常業務と同等フローで処理され、タイミングを逃す。
  • 営業リソースが確保できない
    既存事業優先で専任営業が置けず、初期顧客開発が進まない。
  • 予算が後回しになる
    ROIが不透明な序盤では投資判断が遅れ、必要な活動が後手に回る。
  • 経営と現場の乖離
    戦略と顧客実態がつながらず、現場が「やらされる側」になってしまう。

KPI設計の誤り

最後の大きな失敗原因が、KPIの設定ミスです。

  • 初期フェーズでも売上を最重要KPIにしてしまう
  • CAC・LTV・利益率などの健全性指標が管理されない
  • 「売上が伸びない=失敗」と判断し、撤退判断を早めてしまう

BtoBの初期フェーズでトップラインだけを見るのは誤りです。必要なのは、正しく伸びているかを判断できる「財務 × 現場KPI」の設計です。

成功するBtoB新規事業立ち上げの4つの原則

BtoBの新規事業は、「やり方」よりも構造の設計が成否を分ける領域です。営業・マーケティング・開発・財務指標・投資判断など、多くの要素が絡み合うため、単発の施策では成果に結びつきません。

ここでは、BtoB企業が新規事業を継続的な成長軌道に乗せるための、4つの必須原則を解説します。

 財務と事業KPIをつなぐ共通ダッシュボードが設計されている

新規事業は売上が上がるかどうかだけで判断するのは危険です。成功する企業は、財務指標(ROIC)と事業KPIを一本の線でつなぐ設計ができています。

  • ROICツリー(営業利益率 × 投下資本回転率)をベースに、売上・単価・LTV・CACなどのKPIを紐づける
  • 経営企画と現場が共通で使える見える化ダッシュボードを整備
  • 財務的に説明可能な施策ポートフォリオを作り、CFOが「投資して良い」と判断できる状況を作る

財務と現場のKPIが一本化されていることが成功する新規事業に共通する最初の条件です。

トップラインとキャッシュフローを両立させる

BtoBで最も多い失敗が、「売上は伸びたがキャッシュが回らない」というケースです。特にサブスク型(SaaS)はこの罠に陥りやすい傾向があります。

  • 売上成長だけを追うと、利益・キャッシュが伴わず破綻する
  • サブスクではPayback期間(投資回収期間)の設計が事業評価の軸
  • PL(損益計算)だけでなく、キャッシュイン/アウトの構造を可視化
  • PMF前は「売上より検証」を評価指標に置き、スケール期とはKPIを分けて判断

BtoB新規事業は、トップライン(売上)とキャッシュフローをセットで管理できる仕組みが必須です。

顧客起点の探索プロセスを持つ

事業開発の出発点はアイデアではなく、「誰の、どんな課題を、どう解決するのか」から始まります。

  • PoC段階から、インタビュー/提案/失注分析の学習ループを組み込む
  • 顧客にとっての価値(Will)
  • 自社で実現可能な提供手段(Can)
  • 市場として成立するか(Should)

これらを往復しながらPMFを探索していきます。成功する企業は、検証の質と速度が圧倒的に高いのが特徴です。

アジャイルな意思決定体制をつくる

立ち上げ初期は、適切な意思決定の速さが事業の命です。

  • 「全員の合意を取ってから進む」では間に合わない
  • 検証データに基づき、週次・隔週で判断を更新する文化が重要
  • 経営と現場が同じKPIとデータを見て、短いサイクルで改善
  • 前提が変われば仮説も変える“アジャイル経営”が求められる

BtoBの新規事業は複雑性が高いため、意思決定の遅さ=機会損失=事業の失速につながります。

BtoB新規事業立ち上げの全体ロードマップ

BtoBの新規事業は、勘やひらめきだけで成功するものではありません。重要なのは、「仮説 → 検証 → 学習 → 拡張」というプロセスを、財務・顧客・組織の3軸で同時に積み上げていくことです。

ここでは、成功確率を高めるための代表的なロードマップを5つのステップに分けて整理します。

1. 仮説構築

最初のステップでは、何をつくるかよりも誰のどんな課題を解決するかを明確にすることが重要です。仮説構築が曖昧だと、以降の検証や営業活動がすべてズレていきます。

課題(Pain)の特定

顧客が抱えている非効率やコスト、判断の遅れ、属人化など、定量・定性的な課題を洗い出します。「何が困っているのか」を表面的にではなく、根本原因まで言語化することがポイントです。

提供価値(Value Proposition)の明確化

その課題に対して、どのような改善や変化を提供できるのかを整理します。売上向上・業務効率化・工数削減・リスク低減など、財務的インパクトにまで落とし込むことで説得力が高まります。

差別化ポイント(Why Us)

競合や既存手段と比較して、自社が勝てる理由を明確にします。独自データ、専門人材、既存アセット、提供プロセスなど、他社には再現しづらい優位性を定義することが重要です。

仮説はあくまでスタート地点です。完璧さよりも、後で検証・修正できる前提でスピーディに作ることが肝になります。

2. 市場セグメントの確定

BtoBにおける成功確率は、「どの市場を狙うか」で大きく変わります。顧客が明確でなければ、検証も営業も拡大も成立しません。

コア市場/モア市場の定義

最初に集中的に攻める「コア」のセグメントと、その周辺の拡張領域にあたる「モア」のセグメントを切り分けます。

コアは「初期成果がもっとも出やすい顧客群」、モアは「PMF後に狙う拡張先」という位置づけです。

市場社数の把握

TAM(全体市場)/SAM(狙える市場)/SOM(実際に取りに行く市場)を、社数ベースで算定します。これにより、必要な商談数・テスト顧客数・営業チャネルの強度が見えるようになります。

意思決定構造の理解

BtoB領域では、意思決定者・影響者・利用者が異なることが一般的です。部門長、課長、現場担当など、誰が「決めるのか」「動かすのか」「予算を持つのか」を調べ、買い方の特性を踏まえてセグメントを精緻化します。

3. PoC(検証)

仮説を机上で終わらせず、実際の顧客で検証するフェーズです。BtoBの検証は、個人向けと比べて時間も労力も必要ですが、この段階を省略するとほぼ確実に失敗します。

誰に検証するのか

PoCは「コア市場」の顧客で実施するのが鉄則です。初期段階で合う顧客に検証できれば、施策の精度が劇的に高まります。

検証の基準設計

  • 何ができれば「価値がある」と言えるのか
  • どの指標を達成すれば「ニーズがある」と判断するのか
  • 失注した場合の理由をどう分類するか

これらを事前にルール化し、感覚ではなく証拠で判断する仕組みを整えます。

BtoBにおける「作る前に売る」の重要性

BtoBはプロダクトを作り込んでから売ると、手戻りのコストが非常に大きくなります。そのため、「モック・資料・プロトタイプ」で提案し、買う意思があるかどうかを先に検証することが重要です。売れる兆しが見えるまで、無駄な開発は極力抑えるべきです。

4. 営業モデル・チャネル設計

PoCを通じて顧客像が固まれば、次は「どう売るか」の設計に移ります。BtoBでは、チャネル設計が事業の成長曲線を大きく左右します。

SDR/BDR/ABMの選択

  • SDR(インサイドセールス):リード創出・育成
  • BDR(新規開拓):未接触企業へのアプローチ
  • ABM(アカウントベースドマーケ):戦略アカウントを個別深耕

事業フェーズ・客単価・市場社数に応じて、最適なモデルを組み合わせます。

回収モデル(Payback)

SaaS・サブスク型の場合は、投資回収期間が重要になります。CAC(獲得コスト)とLTV(顧客生涯価値)の関係が健全かどうかを見極め、キャッシュフローが破綻しない設計を行います。

投資配分

営業人員・マーケ費・プロダクト投資など、どこにどれだけ投資すべきかをフェーズごとに設計します。「勝ち筋が見えるまで固定費を増やさない」という原則が特に重要です。

5. 事業計画/KPI設計

新規事業の計画は、トップライン(売上)だけでは成立しません。財務・営業・プロダクト・組織を横断したKPIが必要です。

ROIC/投下資本の回収性

ROICを軸に、営業利益率×投下資本回転率で事業の健全性を評価します。投下した資本がどれくらいの期間で回収できるのか、構造的に見える化することが大切です。

CFOが見るポイント

  • キャッシュフローの健全性
  • 投資回収のスピード
  • 施策と財務指標の因果関係
  • 儲かる構造になっているか

事業部だけでは判断できない視点を、CFOの観点から接続しておくことが重要です。

トップライン偏重の失敗回避

売上だけを追うと、コストが積み上がり、キャッシュアウトが増え、破綻するケースが多発します。新規事業は特に「利益率」「回収期間」「LTV」の視点をバランスよく持つ必要があります。

6. 財務と現場KPIを接続する設計

最後に、財務指標と現場の活動KPIをつなぐ設計が不可欠です。財務の数字だけを追っても、現場は動けません。一方で、現場の活動だけを見ても、事業の健全性は担保できません。

そのため、

  • 現場KPI(商談数・リード数・提案数・失注理由)
  • 事業KPI(CAC・LTV・ARPA・継続率)
  • 財務KPI(利益率・投下資本回転率・ROIC)

を一つの構造の中でつなげ、共通ダッシュボードでモニタリングする仕組みが必要です。経営・事業・現場が同じ指標を見て意思決定できる状態をいかに早く作るかが、スケールの鍵になります。

▼以下の資料で、企業価値向上に根ざしたBtoB新規事業開発と推進について詳しく解説しています。

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シャコウが実践する、成功するBtoB新規事業の推進ステップ

一般的な新規事業プロセスは、仮説構築 → 検証 → 計画化という型で整理されますが、実際の企業現場では「動かない」「前に進まない」という課題が頻発します。

その理由は、プロセスそのものではなく、“推進の設計” が欠けていることにあります。ここでは、事業構想から検証、投資判断、体制構築までを一貫して支援してきたシャコウ独自のメソッドを、4つのステップに整理してご紹介します。

1. 事業仮説の構造化──「売れる前提」を言語化する

新規事業の失敗の多くは、曖昧なアイデアのまま検証に進んでしまうことです。そのため、1ステップ目では次の3つを中心に“事業になり得る骨格”をつくります。

  • 顧客課題(Will)
  • 提供価値/実現方法(Can)
  • 市場として成立するか(Should)

この3軸で仮説を整理すると、「誰が・何に困っていて・なぜ自社が選ばれるのか」が明確になります。

さらに、単なるアイデアとしてではなく 単価・収益モデル・回収性(LTV/CAC) の前提まで含めて構造化します。

これにより、検証後に財務視点の議論が破綻しない“実行可能な仮説”に仕上がります。

2. セグメント×市場性の検証──“どこで勝つか”を定める

仮説を構造化したら、次に「どの市場で、どの順序で成功をつくるか」を定めます。重要なのは、単なるターゲット設定ではなく、セグメントの「スナップショット化」 です。

具体的には以下の観点で評価します。

  • 社数:その市場に何社いるか
  • 決裁者:誰が予算を握り、どんな意思決定プロセスか
  • 導入可能性:PoCや初期顧客を獲得しやすいか
  • 拡張性:コア/モアのどちらに属するか(短期/中長期)

これらをもとに、「初期のPMFを最短で作るために、どの順番で市場に当てるか」 を設計します。

たとえば、

  • 社数が少ない市場は ABM(アカウント深掘り)
  • 社数が多い市場は SDR(インサイドセールス)

のように、検証と営業アプローチを連動させていくのがポイントです。

▼ABMや、SDR/BDRについては以下の記事で詳しく解説しています。

3. 回収モデルとKPIの設計──“続けられる事業”にする

新規事業は、売上だけでは評価できません。特にBtoBでは、 顧客獲得コスト(CAC)・LTV・回収期間 を組み込んだ設計が必須です。

シャコウでは、次のように財務と事業KPIを最初から統合します。

  • LTV/CAC
  • Payback期間(回収期間)
  • 粗利モデル
  • ROICツリーに紐づく KPI(利益率 × 投下資本回転)

これにより、「投資する価値があるのか」「どこを改善すべきか」が、経営と現場の両方で判断できるようになります。

単なる売上目標ではなく、“財務的に説明可能な新規事業” をつくるためのステップ です。

4. 体制構築(PMO/営業/マーケの統合)──推進力のある組織をつくる

良いアイデアがあっても、組織が動かなければ事業は立ち上がりません。そこで、最終ステップでは事業が前に進み続ける推進体制を設計します。

ポイントは以下です。

  • PMOを中心としたワンチーム体制をつくる
  • マーケ・営業・開発の意思決定を週次で統合する
  • 稟議・調整のスピードを最大化する
  • 検証結果 → 仮説修正 → 施策実行 の短サイクル運用

この体制が機能すると、意思決定が止まる、誰も動かない、といった新規事業の典型的な停滞を防げます。

 

ここで紹介したのは、「実際に動く」ための推進構造をつくるメソッド です。

  • 事業仮説を構造化し
  • 勝つ市場を定め
  • 財務と事業を接続し
  • 推進できる体制を構築する

この一連の流れによって、企業側の意思決定と現場の動きが統一され、新規事業が止まらず・迷わず・成果に向けて進む状態をつくることができます。

▼以下の資料で、企業価値向上に根ざしたBtoB新規事業開発と推進について詳しく解説しています。

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BtoB向け|新規事業アイデアの出し方

BtoB領域の新規事業では、「思いつき」ではなく再現性のある切り口からアイデアを生成することが重要です。

ここでは、多くの企業が実際に活用している5つの起点を整理して紹介します。

【課題起点】顧客の困りごとから逆算する

もっとも王道かつ成功確率の高いアプローチが、顧客の課題から出発する方法です。

  • 現場の非効率
  • 手作業に依存した業務
  • プロセスの属人化
  • 無駄なコストや工数

こうした解決すべき課題を明確化すると、提供価値(Value Proposition)が自然に定まり、アイデアが事業になりやすくなります。

例:

  • 「営業資料の作成工数が多い」→ AIによる資料生成サービス
  • 「契約更新作業が手作業でミスが多い」→ 契約管理SaaS

顧客課題を起点にすると、PMF(Product Market Fit)までの距離が最も短くなります。

顧客行動起点】実際の行動データから解決余地を見つける

顧客が抱える課題は、本人が言語化できていないケースも多いものです。そのため、顧客の行動に注目することで新しい需要が見えてきます。

  • どの業務に時間がかかっているか
  • どのプロセスで離脱しているか
  • どのシステムをどの順番で使っているか

行動観察(UXリサーチ)や業務フロー分析は、潜在ニーズの発見につながります。

例:

  • 顧客が毎回「エクセルで加工 → 手作業で登録」している
    → データ統合・自動登録ツールのニーズがある

データでは見えない無意識の行動パターンが、事業アイデアを生むヒントになります。

【データ起点】業績・業務データから価値を抽出する

BtoBではデータが豊富に存在するため、そこから価値を掘り起こすアプローチが強力です。

  • 顧客データ
  • 売上・粗利データ
  • 在庫・物流データ
  • 業務プロセスデータ

これらを分析すると、非効率や改善余地が浮かび上がります。

例:

  • 受発注データに季節性や欠品の傾向がある
    → 需要予測AIの余地がある
  • 商談データに「失注理由」が蓄積されている
    → 営業改善AI・ナレッジ活用のチャンス

データ × アクションの接続点を見つけることがアイデア創出につながります。

【業界構造の非効率起点】業界横断で見える構造的な歪みを狙う

特定の企業ではなく、業界構造全体を俯瞰したときに見えてくる非効率から事業を生み出す方法です。

  • 中間業者が多い
  • 情報の非対称性が大きい
  • アナログ運用が業界標準
  • 規制・商習慣でイノベーションが遅い

こうした構造的な歪みは、Vertical SaaS(業界特化型SaaS) の典型的な出発点です。

例:

  • 建設業:紙台帳/FAXが残り非効率 → 原価管理・進捗管理SaaS
  • 医療業界:在庫管理が属人的 → 医療在庫DXサービス

業界全体の課題に着目することで、大きな市場を狙えるアイデアが生まれます。

【社内アセット起点】自社の強みを「別市場」に転用する

自社の保有するアセットから、新規事業を横展開するアプローチです。

  • 顧客基盤
  • 営業ネットワーク
  • データ・ノウハウ
  • 開発リソース
  • 既存プロダクトの一部機能

これらを再編集し、別市場に提供することで高い勝率を得られます。

例:

  • 既存事業で培った「品質管理の仕組み」→ 製造向け品質管理SaaS
  • コンサルティングの知見 → 業界特化型BPOサービス

アセット × 新しい市場 の発想は、資本効率の高い事業を生む有力な方法です。

▼新規事業のアイデアに関しては以下の記事でも紹介しています。

BtoB新規事業立ち上げに使える4つのフレームワーク

アイデア創出だけでなく、立ち上げ前の分析・検証・戦略設計に活用できるフレームワークを紹介します。全て使う必要はなく、事業フェーズに応じて最適なツールを使い分けることが重要です。

3C(顧客/自社/競合)

3C分析は、事業アイデアの基本構造を整理するのに最適です。

  • Customer(顧客):誰の、どんな課題を解決するか
  • Company(自社):自社が提供できる独自価値は何か
  • Competitor(競合):既存プレイヤーとの違いは何か

この3つが揃って初めて、事業として成立します。

▼以下の記事で3C分析について詳しく解説しています。

PEST分析

新規事業では、「事業そのものの魅力」だけでなく、外部環境がどの方向に動いているかを把握することが極めて重要です。

PEST分析は、以下4つの視点から外部環境を整理するフレームワークです。

  • P:Politics(政治・規制)
    例:法改正、補助金、業界規制、監督省庁の方針
  • E:Economy(経済)
    例:景気動向、為替、原材料高、人件費の上昇
  • S:Society(社会)
    例:人口減少、価値観の変化、働き方の多様化
  • T:Technology(技術)
    例:AI・自動化、クラウド普及、セキュリティ技術

これにより、今、どの市場に波が来ているのかが可視化され、参入タイミングや投資判断に役立ちます。

▼以下の記事でPEST分析について詳しく解説しています。

5Forces

5 Forces(ファイブフォース)分析は、業界の競争プレッシャーを5つの力で整理し、その市場で勝ち残れるかどうかを評価するフレームワークです。

5つの力は以下のとおりです。

  1. 既存競合の強さ
    競争が激しい市場か、差別化できる余地があるか
  2. 新規参入のしやすさ
    参入障壁が高いか、模倣されやすいか
  3. 買い手(顧客)の交渉力
    顧客が強いと価格競争に巻き込まれやすい
  4. 売り手(サプライヤー)の交渉力
    原価や調達が“相手次第”になっていないか
  5. 代替手段の脅威
    別のソリューションに置き換えられる可能性が高くないか

5Forces により、勝てる市場かどうかを構造レベルで判断できます。

▼以下の記事で5Forcesについて詳しく解説しています。

JTBD(Jobs To Be Done)

顧客がプロダクトを“雇う”理由を探るフレームワークです。顧客は製品自体ではなく、進歩(Progress)を買っています。

例:

「ドリルを買う」の本質は「壁に穴を開けたい」
→ 顧客のジョブを捉えると提供価値が変わる

BtoBでも、「レポートがほしいのではなく、意思決定スピードを上げたい」といった深層ニーズが見えるため、価値設計に有効です。

▼以下の記事でも新規事業立ち上げに活用できるさまざまなフレームワークを紹介しています。

▼以下の資料で、企業価値向上に根ざしたBtoB新規事業開発と推進について詳しく解説しています。

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まとめ|新規事業の成功は「設計」で決まる

BtoB新規事業における「良いアイデア」は、発想力よりも構造設計で決まります。特に、ターゲットセグメントの定義・市場規模の把握・事業として成立するかの財務視点(ROIC・回収モデル)が揃って初めて、アイデアは事業の候補になります。

新規事業は発想ではなく、構造・設計・検証の積み重ねで成功が決まります。「どの市場の、どんな顧客に、どんな価値を届けるのか」──ここを丁寧に定義し、事業として成立するかをロジカルに積み上げていくことが、最短でPMFに近づく方法です。

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